意思決定の質
従業員に成長意欲がないと感じたら──やる気の問題にする前に見る場所
「うちの従業員には、成長意欲がない」
経営者や管理職から、よく聞く言葉です。
研修も用意した。目標も伝えた。それでも、自分から動く人が出てきません。
ただ、この見立てには、数字と食い違うところがあります。
この記事では、成長意欲がないように見える原因と、経営者にできることを解説します。
管理職の悩みの1位は「部下に成長意欲がない」
まず、これが感覚の話ではないことを数字で確認してみます。
EdWorksが2023年に行った調査があります。部下を持つ管理職258名への調査です。
部下育成の悩みを複数回答で聞いたところ、いちばん多かったのがこれでした。
部下に成長意欲がない。37.6%
2位は「育成に割く時間があまり取れない」で36.4%、3位が「どう育成して良いかわからない」で32.2%。
意欲がないという見立ては、かなり広く共有されています。
なお2位の時間の問題は、管理職に育成の時間が残らない構造として別にまとめています。ここでは1位のほうを取り上げます。
従業員は入社時点では成長を望んでいる
リクルートマネジメントソリューションズの新入社員意識調査2025を見ると、様子が変わります。
2025年3月から4月にかけて、718名に聞いた調査です。
仕事をする上で重視することの1位は「成長」で35.1%でした。2位の「貢献」23.8%を大きく引き離しています。
さらに、上司に期待することの1位が「相手の意見や考え方に耳を傾けること」で49.7%。
2位は「一人ひとりに対して丁寧に指導すること」で47.9%です。
入ってくる人たちがいちばん重視しているのは、成長そのものです。
意欲がないのではなく、どこかで止まっているのだと思います。
成長意欲はあとから削られていく
入社時にあった意欲が、どこで削られるのか。現場でよく起きる4つを挙げます。
方針が変わる理由が説明されない
市場が動けば、方針が変わるのは当然です。変えること自体は問題ではありません。
問題は、変わった理由が現場に届かないことです。
北に行けと言われて動き出したのに、ある日いきなり、なぜ東に行っていないのかと責められる。
経営者の頭のなかでは、すでに東に行くことが決まっています。しかし現場は聞いていません。
指示が中間で変質する仕組みについては、経営と現場のあいだで起きることとして解説しています。
方針転換が現場にどう届いているのかは、受け取る側の視点でエッセイに書いています。
オーダーの抽象度が高すぎる
たとえば、こう言われたとします。
他社と差別化された商品を作れ。
差別化とは、具体的に何を指すのか。感情に訴えるものか、機能で勝つものか、その両方か。
会社のイメージを変えたいのか、利益率を上げたいのか。どのチャネルで売るのか。
すり合わせる点は、いくらでもあります。
抽象度が高いほど、解釈は分かれます。分かれた解釈で動けば、当然、期待とはズレが生じます。
成長の道筋が示されていない
未経験の領域を任せておいて、結果だけで判断する。これも意欲を削ります。
やり方も、どこまで進めば合格なのかも示されないまま、任されている状態です。
そこへ「早く進めろ」「全然進んでいない」とだけ声が飛んでくる。
この状態が続けば、動くこと自体をあきらめます。
そもそも聞かれていない
先ほどの調査で、上司に期待することの1位は「耳を傾けること」でした。
裏を返せば、聞いてもらえていないと感じている人が多いということです。
面談を入れても本音が出てこない理由は、1on1が形骸化する構造として解説しています。
「成長しろ」は指示になっていない
ここまでの4つに共通するのは、物差しがないことです。
ビジョンやミッションなら、抽象的でかまいません。あえて余白を残す意味もあります。
しかし、現場に落とす指示は違います。具体的でなければ、行動になりません。
「この教材で、テストで80点取れるまでやる」なら、明日から何をすればいいか分かります。
「成長しろ」では、何を基準にすればいいのか分かりません。
基準がないところで意欲だけを求められれば、動けなくなるのが普通です。
意欲を取り戻すために先にできること
- 1
変えるときは理由と意図をセットで出す
現場が求めているのは、変えないことではありません。なぜ変えたのかを言葉にして渡すだけで、受け止め方は変わります。
- 2
指示を「何をどこまで」まで落とす
抽象的なオーダーは、解釈のぶんだけずれます。判断の基準と、どこまでやれば達成なのかを先に決めて渡します。
- 3
未経験の領域は道筋ごと渡す
任せるなら、最初の一歩と参照先まで用意します。誰に聞けばいいのかが分かるだけでも、止まる時間は減ります。
- 4
意欲を測る前に聞く場を作る
意欲がないように見える人ほど、止まっている理由を持っています。それは聞かなければ出てきません。
ただ、意欲の問題として処理するか、渡し方の問題として見直すか。
この分かれ目を一人で抱えていると、たいてい確かめやすいほうへ流れます。相談相手がいない経営者ほど判断がぶれるのは、そのためです。
まとめ:意欲がないのではなく道筋が見えていない
- 1
管理職の悩みの1位は「部下に成長意欲がない」
EdWorksの2023年調査で37.6%。感覚ではなく、広く共有されている見立てです。
- 2
ところが新入社員がいちばん重視するのは成長
新入社員意識調査2025で35.1%。入口の時点で意欲がないわけではありません。
- 3
意欲は入社後に削られる
理由なく方針が変わる。オーダーが抽象的。道筋がない。聞かれない。この4つが重なると人は動けなくなります。
- 4
「成長しろ」は指示ではない
基準のない要求は行動に変えられません。何をどこまでやるのかを渡すのは、経営側の仕事です。
意欲があるかどうかを見る前に、動ける材料を渡せているかを見る。
順番を入れ替えるだけで、見えてくるものが変わります。
そして、渡す材料を決めているのは経営者自身です。
意欲の問題として片づけた瞬間に、手を打つ相手を間違えます。
ここは判断の分かれ目になります。
意欲の問題なのか、渡し方の問題なのか。それを見極める材料は現場からは上がってきません。この機会に、一度確かめてみてください。

