意思決定の質
1on1が形骸化するのはなぜか──「いつでも相談して」が届かない構造
1on1を導入したのに、当たり障りのない近況報告で終わっている。
「困ったことがあれば、いつでも相談して」とも伝えている。それでも誰も来ない。
制度としては動いているのに、中身が伴っていない状態です。
そして問題が手遅れになってから「そんなことになっていたのか」と知ることになります。
この記事では、1on1が形骸化する構造と、本音が出る設計を解説します。
1on1は4社に1社で止まっている
まず、実態を数字で確認してみます。
パーソル総合研究所が2024年に3,000人に行った調査では、直近半年で1on1を経験した部下は55.7%でした。
注目すべきは、その次の数字です。「以前は実施していたが、直近半年は経験していない」が26.9%あります。
導入はしたものの、続かなかった組織が4社に1社の割合で存在するということです。
効果についても、上司の27.6%、部下の29.7%が「面談の効果が感じられない」と答えています。
1on1は、入れれば機能する仕組みではありません。設計を誤ると、気づかないうちに形だけになっていきます。
なぜ本音が出てこないのか
形だけになってしまう理由は、部下の姿勢にはないと考えています。
話さないほうが合理的だという構造が、先に存在しています。
評価を握る相手に弱みは見せられない
いちばん大きな理由がこれです。
上司や経営者は、部下の評価を決める立場にあります。評価は昇給と昇進に直結します。
そこで「できていません」「困っています」と言うことは、自分の報酬を下げる行為になりかねません。
「言葉では相談していいと言われても、鵜呑みにはできない」。これが部下側の現実です。
評価が一方通行であることの影響は、「部下は上司を選べない」でも解説しています。
相談しやすい相手ほど解決策を持っていない
もう一つ、見落とされやすい問題があります。
人は、気後れしない相手を選んで相談します。多くの場合、それは同僚です。
しかし同僚は、決裁権も経験も持っていません。話は軽くなりますが、解決はしません。
解決策を出せるのは自分より上の立場の人ですが、その相手がいちばん相談しにくいのです。
この矛盾があるため、問題は共有されないまま時間だけが過ぎます。
「愚痴はダメ」という空気がある
陰口を言わない、不満をまき散らさない。これ自体は健全な規範です。
ただ、この規範が強すぎると、人間関係の問題を報告する経路まで塞がります。
100人の組織で、全員が全員を好きということはまずありません。
しかし「あの人が苦手です」と上司に言えば、悪口を言う人だと見られるリスクがあります。
結果として、いちばん早く知るべき情報が、最後まで上がってきません。
私も「相談してほしい」と言う側にいました
私自身、Webメディアのディレクターとして管理職をしていた時期があります。
そのとき現場に対して思っていたのは「深刻になる前に、こまめに相談してほしい」でした。
早く言ってくれれば小さく収まるのに、と何度も感じていました。
一方で、いま会社員として現場側にいると、その難しさもよく分かります。
苦手な相手がいても、それを上司に伝えるのは簡単ではありません。
言う側の善意と、言われる側のためらい。その両方に立ってみると、これは気持ちの問題ではないと分かります。
本音が出る1on1にする3つの設計
では、どう設計すればいいのか。頻度や時間よりも先に決めておきたいことが3つあります。
- 1
守秘を先に明言する
ここで聞いた話をどこまで誰に伝えるのか、最初に言葉にします。人事評価に使わないなら、そうはっきり伝えます。曖昧なまま始めると、部下は無難な話しかしなくなります。
- 2
怒るために聞かない
問題を聞いた瞬間に叱られると分かれば、次から報告は止まります。まず受け止めて、対処の相談は別の場に分けます。
- 3
先に自分から開示する
先ほどの調査では、部下の成長にいちばん効いていたのは「上司が本音を話してくれている」と部下が感じることでした。開示は、求める前に自分から行います。
3つ目は見落とされがちですが、いちばん効果があると思います。
自分の失敗や迷いを先に話す上司に対して、部下は初めて弱みを出せるようになります。
やってはいけないこと
逆に、次の3つをやってしまうと、1on1は一度で意味を失います。
聞いた内容を本人の許可なく他部署へ流すこと。守秘が破られた瞬間、二度と本音は出ません。
面談の内容をそのまま評価に反映させること。評価材料になると分かれば、話す内容は選ばれます。
聞いたまま何も変えないこと。話しても何も動かないと学習されれば、続ける理由がなくなります。
拾った話に対しては、何を変えたのか、あるいはなぜ変えられないのかを必ず返すようにします。
問題を抱えている前提で聞く
最後に、姿勢の話をします。
完璧に仕事をこなす人はいません。成果を出している人でも、抱えている課題はゼロではありません。
だからこそ、聞き方を変える必要があります。
「何か問題はありますか」ではなく、「この人は何かを抱えている」という前提から始める。
前者は「ありません」で終わりますが、後者は具体的な問いにつながります。
この1か月でいちばん時間を取られたこと。やりにくかった場面。判断に迷ったこと。
事実を尋ねるほうが、感情を尋ねるより実態に近づけます。
経営者も同じように本音を言えない立場にいる
ここまで部下の側の話をしてきましたが、同じことが経営者にも起きています。
経営者もまた、社員には弱音を吐けません。家族には心配をかけられません。
つまり「弱みを見せられない」という構造は、組織の上下で同じ形をしています。
経営者側の事情については、「経営者に相談相手がいないのは危険信号」で解説しています。
自分が言えない立場にいることを知っている人ほど、部下の沈黙の意味も分かるはずです。
まとめ:言葉ではなく状態をつくる
要点を整理します。
- 1
沈黙は姿勢の問題ではない
評価を握る相手に弱みは見せられません。相談しやすい相手は解決策を持っていません。愚痴を禁じる空気が経路をふさぎます。
- 2
1on1は入れれば効くものではない
4社に1社が続かず、3割近くが効果を感じていません。守秘を明言すること、叱らないこと、自分から開示することが先です。
- 3
聞いた後に返す
何を変えたのか、変えられないならなぜか。返答がない仕組みは、一度で形だけになります。
「いつでも相談して」は、それだけではいちばん届かない言葉だと思います。
必要なのは言葉ではなく、この人になら言っても大丈夫だと思える状態です。
直近の1on1で、部下から予想外の話が出たかどうか。そこをひとつの目安にしてみてください。

