意思決定の質
なぜ管理職は育たないのか──管理職にだけ教育が用意されていない
管理職に任せたのに、チームが思うように動かない。
昇進させ、研修にも出した。それでも、期待していた動きにはなりません。
管理職が育たないという悩みは、多くの会社が抱えています。
ただ、原因は本人の資質ではないと考えています。育てる順番が飛ばされているのです。
この記事では、管理職が育たない原因と、経営者が先に打てる手を解説します。
8割の会社が人材育成で困っている
厚生労働省の令和6年度能力開発基本調査に、はっきりした数字があります。
能力開発や人材育成について何らかの問題があるとした事業所は79.9%。およそ8割です。
そして、その問題点の1位がこれでした。
指導する人材が不足している。59.5%
2位は「人材を育成しても辞めてしまう」で54.7%、3位が「人材育成を行う時間がない」で47.4%です。
1位に来ているのは、教える人がいないという問題です。
そして教える人とは、多くの場合、管理職のことです。
つまり8割の会社が、管理職が育っていないところでつまずいています。
管理職には新入社員ほど教育を用意していない
では、その管理職に、会社はどれだけ教育を用意しているのか。
同じ調査に、職層別の数字があります。
まず、社外研修などのOFF-JTを実施した事業所の割合です。
新入社員が59.8%、中堅社員が57.1%、管理職層は51.0%。
次に、計画的なOJTを実施した事業所の割合です。
新入社員が54.7%、中堅社員が37.5%、管理職層は24.8%。
管理職層だけ、新入社員の半分以下まで落ちます。
新人には手順を用意し、先輩をつけ、計画を立てて教えます。
ところが管理職になった途端、その手当てが消えます。
役職に就いたのだから、あとは自分で覚えるだろう。そう扱われているということです。
部下の育て方を習っていない人が、部下を育てる立場に座っている。
指導する人材が足りないのは、そう考えれば当然の結果です。
管理職が育たない4つの原因
そもそもなりたがる人がいない
育てる以前に、候補が集まらない会社が増えています。
管理職になりたくないと答える一般社員は7割を超えます。詳しくは管理職のなり手がいない原因をご覧ください。
嫌々就いたポジションで、意欲的に学ぶ人は多くありません。
指導の仕方を誰も教えていない
前の章の数字が、そのまま当てはまります。
管理職に必要なのは、自分が成果を出す力ではありません。人に成果を出させる力です。
これはまったく別の技術ですが、切り替えの訓練はほとんど行われていません。
結果として、多くの管理職は、自分が受けた指導をそのまま真似します。
厳しく詰められて育った人は、厳しく詰める側になります。
育成に使う時間が残っていない
調査の3位「人材育成を行う時間がない」が47.4%でした。
管理職はプレイヤーを兼ねたまま、育成だけを追加で求められています。この点は人材育成が進まない原因にまとめました。
指導は現場で別のものとして受け取られている
最後の原因は、数字に出にくいものです。
管理職は「教育している」つもりでも、現場は「否定された」「詰められた」と受け取っている。
同じ場面なのに、送り手と受け手で意味が変わります。
ここが崩れると、どれだけ正しい指導も届かなくなります。
「厳しくすれば育つ」という思い込み
厳しい指導が必要な場面は、たしかにあります。
基準が緩めば、成果物の質は落ちます。なあなあになれば、現場は楽なほうへ流れます。
問題は、そこから一歩ずれたところにあります。
厳しくすれば、いいものが生まれる。
この思い込みが入ると、厳しさそのものが目的にすり替わります。
しかし厳しさは、手段のひとつでしかありません。
大事なのは、相手が受け取れるボールを投げられているかどうかです。
どれだけ正しくても、受け取れなければ意味がありません。
取れない球を投げ続けても、人は育ちません。反発が生まれるか、萎縮するかのどちらかです。
同じ指摘でも言い方で結果が変わる
たとえば、部下が手順を間違えたとします。
「そこ、手順が違いますよ。よく間違えるポイントなので、メモしておいてもらえますか」
これも指摘です。一方で、こう言う人もいます。
こんなところで躓くなんて論外ですよ。なんで覚えてないんですか。
内容はどちらも「手順が違う」です。それでも、受け取られ方はまるで違います。
前者には次の行動が残ります。後者に残るのは、感情だけです。
ミスはゼロにはなりません。一度で覚えられないこともあります。
だとすれば、指導の目的は、次に間違えにくくすることのはずです。
頭ごなしに否定しても、その目的には近づきません。
言い方ひとつで受け取られ方がどう変わるかは、指導される側の視点でエッセイに書いています。
経営者が先に打てる手
- 1
昇進の前に指導の型を渡す
役職に就いてから覚えさせるのではなく、就く前に教えます。任せ方、伝え方、フィードバックの仕方。ここに計画的なOJTを入れている会社は24.8%にとどまります。
- 2
管理職の業務を先に引く
育成を足すなら、どこかを引きます。プレイヤー業務を抱えたまま「育ててくれ」と言っても、時間はどこからも出てきません。
- 3
指導が届いているかを部下の側から確認する
管理職の自己申告だけでは分かりません。届いていないというズレは、受け取る側にしか見えないからです。
とくに3つ目が抜けやすいところです。
部下から見た景色が上に届かない仕組みについては、評価が一方通行になる問題として解説しています。
3つとも、決められるのは経営者一人です。
どれから手をつけるかで迷うなら、判断を検証してくれる相手を持つところから始まります。
まとめ:管理職は放置しても育たない
- 1
8割の会社が人材育成に問題を抱えている
厚労省の令和6年度調査で79.9%。問題点の1位は「指導する人材が不足している」で59.5%。教える側が足りていません。
- 2
管理職層への計画的なOJTは24.8%
新入社員の54.7%の半分以下。教わっていない人が、教える立場に座っています。
- 3
厳しさは手段であって目的ではない
受け取れないボールを投げ続けても、反発か萎縮しか生まれません。指導は届いてはじめて指導になります。
- 4
育成を足すなら、どこかを引く
時間と型を渡さないまま「育ってくれ」と言っても、管理職は動けません。順番は経営者にしか変えられません。
管理職が育たないのは、本人の資質の問題ではありません。
会社のほうが、育てる順番そのものを飛ばしているのです。
そして、その順番を組み替えられるのは経営者しかいません。
いま管理職に任せていることは、渡した手当てに見合っているでしょうか。
答えに詰まるなら、まだ判断の材料が揃っていないのかもしれません。一度、確かめてみてください。

