意思決定の質
赤字事業から撤退しない理由──続けていい赤字とやめられないだけの赤字
赤字の事業をやめるべきか、続けるべきか。
結論から言うと、赤字だからといって撤退が正解とは限りません。むしろ、撤退したことでかえって赤字が広がる会社もあります。
ただし、続けたほうがいい赤字と、やめたほうがいい赤字があります。見た目はどちらも同じ赤字なので、区別がつきにくいのです。
この記事では、続けたほうがいい赤字の条件、撤退しても赤字がゼロにならない理由、判断を狂わせる3つの理由、そして見分けるための4つの確認を解説します。
続けたほうがいい赤字の3つの条件
会計と戦略の面から見ると、赤字のまま続けることに合理性がある場合があります。
代表的な条件を3つ紹介します。
貢献利益がプラスになっている
損益計算で赤字に見えても、その事業が全社の固定費を負担してくれていることがあります。
- 限界利益
- 売上高から変動費を引いたもの。売れば売るほど積み上がっていく利益です。
- 貢献利益
- 限界利益から、その事業だけにかかる固定費(個別固定費)を引いたものです。
会社全体で発生する家賃や本社の人件費といった共通固定費は、各事業に割り振られて計上されます。
この配賦(はいふ)のせいで営業利益が赤字に見えても、貢献利益がプラスなら話は変わります。その事業は共通固定費の一部を負担しているからです。
営業利益が赤字でも貢献利益が黒字なら、やめるより続けたほうが全社の利益は大きくなります。
まず確認したいのは、その赤字が本当の赤字なのか、配賦のしかたで生まれた見かけだけの赤字なのかという点です。
他の事業を支えている
単体では赤字でも、他の事業にポジティブな影響を与えていることがあります。
その事業があるから大量に仕入れられて原価が下がっている。入口の商品として機能していて、そこから本命の商品が売れている。取引先との関係を保つために必要になっている。
こうしたつながりを考えずに「赤字だから」と事業を畳んでしまうと、赤字は消えても他の事業の利益まで落ちてしまいます。
まだ立ち上げの途中にある
創業期や成長の初期にある事業は、先行投資のぶん赤字になります。これは想定内の赤字です。
ポイントは、想定内かどうかを判断する物差しを持っているかどうかです。
いつまでに、どこまで届く予定だったのか。その計画があれば、いまの赤字が計画どおりか遅れているかが分かります。なければ、何年経っても「まだ立ち上げ途中」と言い続けられてしまいます。
撤退しても赤字はゼロにならない
もうひとつ、見落とされやすい点があります。撤退すれば赤字が消えるとは限らないことです。
赤字事業をやめると、その事業の売上と、そこから生まれていた利益が消えます。
一方で、共通固定費は簡単には消えません。本社の家賃、管理部門の人件費、システムの利用料。これらは事業をひとつやめても、ほぼそのまま残ります。
たとえば、その事業が年に2,000万円の赤字だとします。ところが内訳を見ると、配賦された共通固定費が3,000万円入っていた。
この場合、事業をやめても3,000万円の固定費は残ります。一方で、その事業が稼いでいた利益は消えてしまう。結果として、全社の赤字はむしろ広がります。
赤字事業を切ったのに全社の数字が悪化する。この逆転は珍しくありません。
撤退そのものにも費用がかかります。設備の処分、契約の解約、在庫の整理。畳むほうが高くつく場合もあります。
撤退を検討するときは、やめたあとに残る費用と、やめるためにかかる費用を先に洗い出しておきましょう。
判断を狂わせる3つの理由
ここまでは、続けることに合理的な理由がある場合でした。ここからが本題です。
撤退しない理由には、続けるべき理由と、やめられない気持ちにあとから理由をつけただけのものが混ざっています。しかも、見た目では区別がつきにくいのです。
投じた額が判断に入り込んでいる
これまでにかけた開発費、人件費、時間。ここでやめると全部が無駄になる気がする。
しかし、投じた額はもう戻ってきません。これから何を選んでも回収できない以上、次の判断の材料にはならないのです。
この心理はサンクコストとして別の記事に詳しく書きました。
見分けるヒントがあります。続ける理由を説明するとき、「ここまでやったのだから」と過去の話から始まるようなら、この傾向が強いかもしれません。
人間関係による忖度
その事業を立ち上げた役員がいる。担当している社員がいる。撤退は、その人たちの数年を否定するように見えます。
配慮すること自体は悪いことではないと思います。ただ、それは事業の判断ではなく、人に対する判断です。
この2つが混ざったまま議論すると、事業をどうするかにたどり着く前に話が終わってしまいます。
見込みが願望になっている
まだ伸びる。もう少しで黒字化する。この言葉が何年も繰り返されているなら、一度その根拠を確かめてみてください。
その見込みは、数字で説明できるものでしょうか。それとも、そうであってほしいという期待でしょうか。
期限のない「かもしれない」は、際限のない資金投下につながっていきます。
続けていい赤字か見分ける4つの確認
いま迷っている事業について、次の4つを順番に確かめてみてください。
- 1
貢献利益はプラスか
配賦された共通固定費を除いて計算し直してみます。プラスなら、その事業は全社の固定費を負担しています。ここが最初の分かれ道です。
- 2
やめたあと、費用はいくら残るか
共通固定費のうち、撤退しても消えない分を洗い出します。あわせて、撤退そのものにかかる費用も見積もります。赤字額と比べて、本当に改善するのかを確かめてみてください。
- 3
今日ゼロから始めるとしたら、この事業を始めるか
これまでの投資が一切なかったと仮定して、今の情報だけで考えてみます。始めないと感じるなら、続けている理由は見込みではなく、投じた額にあるのかもしれません。
- 4
続ける理由が数字と人に分けて書けるか
紙に2つの列を作って、分けて書き出してみます。数字の列が埋まらず、人の列だけが埋まるようなら、事業の判断になっていない可能性があります。
4つとも、頭のなかで考えるだけではなかなか答えが出ません。数字を出し直して、紙に書いてみる。この手間をかけるかどうかで、判断の質が変わってくると思います。
決められないときに起きていること
会議が「もう少し様子を見よう」で終わる。次の四半期にも同じ結論が出る。
このとき、判断を先延ばしにしているように見えますが、実際には「続ける」という判断を毎回下しています。
決めていないつもりで、実際にはいちばん費用のかかる選択肢を選び続けている状態です。
変えないことが当たり前になってしまう心理については、現状維持バイアスとして別の記事に書きました。
この状態から抜け出すために必要なのは、決断力というよりも、何がどうなったらやめるのかという条件を先に決めておくことだと思います。
条件の作り方は、撤退基準の3つの型としてまとめました。
まとめ:赤字かどうかでは決まらない
- 1
赤字でも続ける合理性はある
貢献利益がプラス、他事業を支えている、立ち上げ途中。この3つは会計と戦略で説明できる理由です。
- 2
撤退しても共通固定費は残る
配賦を除いて計算し直すと、やめたほうが全社の赤字が広がることがあります。撤退の費用も見積もります。
- 3
続ける理由には、判断を狂わせるものが混ざる
投じた額、人間関係による忖度、願望になった見込み。続ける理由が過去の話から始まるなら、この傾向が強い。
- 4
見分けるには、数字を出し直して紙に書く
貢献利益、残る費用、ゼロから始めるかの質問、数字と人の切り分け。頭のなかだけでは答えが出にくいものです。
赤字だからやめる、黒字だから続ける。実際の判断は、そこまで単純ではありません。
大切なのは、続ける理由が数字で説明できるかどうかをそのたびに確かめることだと思います。
いま抱えている事業のうち、その説明を紙に書けるものはいくつあるでしょうか。この機会に、一度確かめてみてください。

