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意思決定の質

経営者の決断疲れ──判断の質は数に削られていく

ふくきた|意思決定ドック 主宰
著者ふくきた意思決定ドック 主宰

夕方の決裁は、朝と同じ質で下せているでしょうか。

朝は選択肢を並べて比べていたのに、夕方は「それでいい」と即決している。案件が軽いからではなく、早く終わらせたくなっている。

心当たりがあるなら、それは意志が弱いからではなく、判断という作業の性質によるものだと思います。

この記事では、判断の質が数に削られていく構造と、質を守る仕組みの作り方を解説します。

決断疲れとは

判断を重ねるほど、あとの判断の質が落ちていく。この現象は決断疲れと呼ばれています。

疲れといっても、体の疲労のように自覚できるとは限りません。本人は普段どおりのつもりで、選び方だけが変わっていきます。

深く比べることをやめて、手近な選択肢で済ませる。あるいは、決めること自体を避けて先へ送る。どちらも、決める力が残り少ないときに起きる省エネのような反応です。

判断は最後に経営者へ集まる

会社では、現場で決めきれなかったことが上へ上へと運ばれます。組織の仕組み上、その最後にいるのが経営者です。

中小企業では、この集中がさらに強くなります。権限を分ける相手が少なく、金額の大小を問わず「社長に聞こう」で回ってくるからです。

ただ、原因は判断の量そのものではないことが多いです。どこまでを誰が決めるかが決まっていないので、決めなくていい判断まで社長のところに来ています。

マッキンゼーが2019年に、世界の経営幹部・管理職1,200人超へ行った調査があります。

61%が、意思決定に費やす時間の少なくとも半分は有効に使えていないと答えました。

判断の量は多いのに、その時間の中身は薄い。組織の整った大企業ですら、この状態です。

判断が一人に集中する中小企業で同じことが起きていないと考えるほうが、不自然だと思います。

疲れは判断の中身に出る

決断疲れの厄介なところは、症状が疲労感ではなく、判断の中身に出ることです。現れ方は3つあります。

一つ目は、雑になることです。比較を省いて、最初に出てきた案で決めてしまいます。

二つ目は、先送りです。「来週もう一度持ってきて」が増えます。判断を避けても案件は消えないので、決まっていない案件だけが積み上がっていきます。

三つ目が、いちばん見えにくいものです。現状維持に流れることです。

変える判断には材料の検討が要りますが、変えない判断には何も要りません。疲れた頭は、いちばん費用のかからない「今まで通り」を選びます。

この傾きが固定してしまった状態については、現状維持バイアスとして別の記事で解説しています。

つまり決断疲れは、放置すると撤退や損切りのような重い判断から順に止めていきます。

判断を減らす

守り方は3つの方向に分かれます。減らす、軽くする、外に出す。順に説明します。

まず、判断の総量そのものを下げる方向です。

一つは、基準を先に決めておくことです。撤退のような重い判断は、渦中で考え始めるといちばん消耗します。

やめる条件を先に文章にしておけば、渦中ですべきことは「基準に達したか」の確認に変わります。基準の作り方は別の記事にまとめました。

もう一つは、判断の対象そのものを減らすことです。抱えている案件の数だけ、判断は発生し続けます。やらないことを決める引き算は、判断の量を根元から減らします。

三つ目は、任せる範囲を決めることです。金額や影響の大きさで「ここまでは現場で決めていい」と範囲を決めて渡します。

判断が社長に集まるのは、部下が決めたがらないからというより、決めていい範囲が示されていないからです。範囲が見えれば、上がってくる判断は減ります。

判断を軽くする

次に、一つあたりの判断を軽くする方向です。

重い判断をする時間帯を決めます。細かい決裁や打ち合わせで頭が埋まる前に、比較の要る判断を先に済ませてしまいます。

都度の決裁をやめてまとめます。来るたびに対応すると、切り替えのたびに消耗します。急ぎでない決裁は、週の決まった時間にまとめて処理します。

決めた理由を一行残します。「何を基準にこう決めた」というメモがあると、似た案件が来たときに最初から考え直さずに済みます。判断が使い捨てにならず、次に生かせます。

そして、疲れている日の夕方に重い判断を置かないことです。判断の質は体調に左右されます。翌朝に回すだけで、比べて決められることがあります。

判断を外に出す

最後に、外に出す方向です。いちばん効きますが、いちばん手つかずになりやすい場所でもあります。

判断の手前には、状況の整理という工程があります。何が論点で、選択肢はいくつあって、それぞれ何を捨てることになるのか。

この整理を全部ひとりの頭のなかでやっているなら、判断の疲れの大半は、実は整理の疲れです。

整理の相手としてAIに壁打ちさせる方法はあります。ただし、AIとの壁打ちには限界もあります。

そして、整理のいちばん深いところにある自分の判断の癖は、自分の目では見えません。利害のない第三者に判断を点検してもらう仕組みについては、別の記事に書きました。

まとめ:質を守るのは根性ではなく設計

  1. 1

    判断の質は数に削られる

    61%が意思決定の時間の半分以上を有効に使えていません。判断が最後に経営者へ集まる以上、量は放っておけば増える一方です。

  2. 2

    疲れは判断の中身に出る

    雑になる、先送りする、現状維持に流れる。重くて大事な判断から順に止まっていきます。

  3. 3

    減らす・軽くする・外に出す

    基準を先に決めることと引き算で総量を減らし、時間帯を決めることとまとめ処理で軽くし、整理の工程を外に出します。

  4. 4

    自分の判断の癖は自分では見えない

    偏りの点検だけは、外の目にしかできない仕事です。定期的に見てもらう仕組みを持ちます。

今日下した判断のうち、いくつが「比べて決めた」もので、いくつが「早く終わらせた」ものだったか。

夕方にそれを思い出せるかどうかが、判断の質を守る最初の一歩になります。今日の帰り道に、一度振り返ってみてください。

この記事を書いた人

ふくきた|意思決定ドック 主宰

ふくきた意思決定ドック 主宰

会社員として組織の内側を見ながら、副業でクライアントワークを続けています。マルチ商法での信用失墜、投資詐欺による数千万円の損失、借金、事業の失敗。人一倍の失敗を重ねるなかで、判断を誤る構造を身をもって学んできました。その経験から、経営者の意思決定に伴走する「意思決定ドック」を立ち上げています。

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