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意思決定の質

社長の指示はなぜ現場で別物になるのか|中間でねじれる4つの原因

ふくきた|意思決定ドック 主宰
著者ふくきた意思決定ドック 主宰

社長の指示は、思っているほど現場に届いていないものです。

経営者が発した言葉は、途中でねじれて、いろいろな都合が入り、現場に着くころには別のものになっています。

これは、誰かの怠慢というより、組織という仕組みがもともと抱えている性質だと思います。

やっかいなのは、その乖離が経営者からは見えにくいことです。指示は通ったつもりでいるうちに、判断の前提そのものが少しずつ崩れていきます。

この記事では、指示が伝わらない4つの原因、経営者と現場で見えている景色の違い、伝わる指示の出し方、そして中間を前提にした組織の作り方を現場にいる立場から解説します。

社長の指示が現場に伝わらない4つの原因

経営者の言葉は、中間の階層を通るたびに、少しずつ形を変えていきます。

原因は4つに分けられます。

指示があいまいで解釈が分かれる

「他社と差別化された商品を作ってほしい」。社長からすれば、方向を示したつもりの一言です。

ただ、差別化とは何を指すのか。機能で勝つのか、見た目で選ばれるのか、価格で勝つのか。受け取る側の解釈は、いくらでも分かれます。

解釈が分かれたまま動けば、上がってくるものは社長の頭にあったものとは違います。この時点では、まだ誰も間違ったことはしていません。

中間が自分の都合で翻訳する

あいまいな指示は、中間を通るときに具体化されます。そのときに、間に立つ人の都合が混ざります。

「差別化された商品を」が、現場に着くころには「いつまでにSKUを何個」「今期は熱中症対策の商品を」という、具体的で硬い指示に変わっています。

上はやり取りのつもりでも、間に立つ人が話を大きくして、別物の指示にしてしまいます。

私の部署でも、同じことが起きました。社長からは「急がなくていい。時間がかかっても、ちゃんとしたものを作ってほしい」と言われていました。

ところが間に立つ人からは「展示会に間に合わせろ」と言われます。急いで作れる商品は、他社の製品にラベルを貼り替えたものくらいしかありません。

その結果、どこにでもある商品の企画が進みました。

しばらくすると、今度は間の人が「急がなくていいから、ちゃんとしたものを」と言い始めました。社長が最初から言っていたことです。

間に立つ人には、間に立つ人の都合があったのだと思います。ただ、現場に届いたのは社長の言葉ではなく、その都合のほうでした。

もうひとつ、人の配置でも同じことが起きます。

たとえば、ある人材を「Web運用のプロ」として採用したはずが、いつのまにか商品開発をメインで担わされている、というケースです。

「総合職なんだから何でもやって当然」という理屈が、当初の合意を上書きしていきます。

採用時に決めた目標も、育てていたはずの成果も、白紙に戻ります。現場の本人からすれば「話が違う」となります。

こうした指示の揺れは、経営者の意図が原因ではないことが多いものです。間で起きているのです。

保身が判断の基準になる

中間管理職の多くは、面倒を起こしたくないものです。

自分が波風なく、良い条件で働き続けられること。それが無意識の判断基準になりやすいのです。

すると、社長の指示のうち、現場に負担がかかる部分や反発が出そうな部分は、角を落として伝えられます。「社長はこう言っているが、無理のない範囲でいい」と、途中で薄められるのです。

社長の指示が現場に着くころに弱くなっているのは、このためです。悪意はなく、本人は「うまく調整した」と思っています。

伝言ゲームで角が取れる

4つ目は、人が間に入るたびに起きることです。指示は、聞いた人が理解できた範囲で言い直されます。

人は、自分が理解できたところまでしか伝えられません。分からなかった部分は、抜け落ちるか、その人なりの解釈で埋められます。

社長から役員、役員から部長、部長から課長と3回言い直されれば、最初の意図は3回削られます。現場に着くころには、なぜやるのかは消えて、作業の指示だけが残っています。

経営者と現場では見えている景色が違う

経営者は、会社全体と数年先を見ています。現場は、目の前の顧客と今月を見ています。同じ会社にいても見えている景色が違うので、同じ言葉が別の意味に変わります。

そして、指示が下りるときにねじれるのと同じことが、報告が上がるときにも起きます。

この乖離は、単なる「風通しの悪さ」の話ではありません。

経営にとっての本当の問題は、判断の前提となる情報が、歪んで届くことにあります。

経営者は、意思決定のために現場の状況を把握しようとします。ただ、上がってくる報告は、すでに中間で角が取れて、都合よく整えられています。

都合の悪い事実は薄まり、順調に見える部分だけが強調されます。人は自分の立場を守るために、悪気なくそうしてしまうものです。

つまり経営者は、組織のなかでいちばん情報から遠い場所で、いちばん重い判断を下しているのです。

これも、経営者の孤独のひとつの形だと思います。人が周りにいないのではなく、正確な現実が届かないのです。

前提が歪んでいれば、どれだけ優秀でも判断は鈍ります。能力の問題ではなく、構造の問題なのです。

私が勤めている会社で、こんなことがありました。ネット販売の部署で、Web広告で集客していた通販サイトがずっと赤字だったのです。

一人のお客さんを獲得するのに1万円かかるのに、その人が生む利益は5千円。少し専門的な言葉を使うと「LTV(顧客生涯価値) - CPA(1件あたりの獲得コスト)」がマイナスの状態でした。

つまり、誰が運用しても黒字にならない構造ということです。

驚いたのはここからです。会議室で責任者と二人で話したとき、その人はこの構造を分かっていました。それでも「大丈夫」と言って、広告を続けようとしていたのです。

理由を聞くと、こうでした。上の人は広告の仕組みが分かっていない。赤字でも売上が立っていれば見栄えがいい。広告を止めて売上が落ちるほうが、心証が悪くなる。

会社の利益より、上司からどう見えるか。現場の判断は、そこで決まっていました。

担当者が特別に悪いわけではないと思います。会社員の評価は上司がつけるものなので、上司の心証がよいほうを選ぶのは、その人にとっては合理的です。

ただ、経営者の側から見ると恐ろしい話です。赤字の理由を現場に聞いても、「順調です」という答えしか返ってきません。

乖離は、指示が下りる途中だけでなく、数字が上がってくる途中でも起きています。

伝わる指示の出し方4つ

原因の多くは中間にあります。それでも、経営者の側で減らせるねじれがあります。

指示の出し方を4つ変えるだけで、届き方は変わります。

  1. 1

    目的と背景を一緒に渡す

    「何をやるか」だけを渡すと、中間は自分の解釈で理由を埋めます。「なぜ今これをやるのか」「何ができたら成功なのか」を一言添えるだけで、翻訳の余地が減ります。

  2. 2

    何をどこまでやるかを決めて渡す

    期限、水準、やらなくていいこと。この3つが決まっていない指示は、中間で膨らみます。「急がなくていい」なら、いつまでならいいのかまで言葉にします。

  3. 3

    相手の言葉で言い直してもらう

    指示を出したあとに「つまり何をすることになったか」を相手の言葉で言ってもらいます。ここでズレが出れば、その場で直せます。伝えたつもりと伝わったつもりの差は、この一往復でほとんど見つかります。

  4. 4

    変えるときは理由をつけて変える

    方針が変わること自体は問題ではありません。理由なく変わると、現場には朝令暮改に見えます。「前提がこう変わったので、こう変える」と理由を添えれば、現場は次の変更にも付いてきます。

4つとも、指示の中身を変える話ではありません。渡し方を変える話です。

「中間は思ったほど機能しない」を前提に設計する

では、経営者はどうすればいいのでしょうか。

出発点は、期待をいったん下げることです。「中間は、思ったほどは機能しない」を前提に組織を設計します。

性善説で「うまく汲んでくれるはず」と委ねるほど、乖離は見えないまま広がります。

大きな階層より小さな信頼チーム

ひとつの現実的な方法が、規模を絞ることです。

信頼できる少人数のチームを組み、プロジェクトごとに並列で走らせます。伝言が重なるほど、意図はねじれるからです。

階層を増やさずに動ける形なら、乖離そのものが起きにくくなります。

中間管理職の役割を定義し直す

AIが定型業務を担う時代に、中間管理職に残る価値は何でしょうか。

上との本質的な調整、外部との交渉、責任を引き受けること、そしてメンバーの成果を最大化するマネジメントです。

単なる伝言役なら、もう必要ありません。中間に何を期待するのかを経営者が言葉にして決め直す必要があります。

経営者が最初にできること

仕組みを変えるには、時間がかかります。ただ、今日から始められることもあります。

整えられていない、生の現場に触れる経路を持つことです。

報告のラインとは別に、都合よく加工されていない事実が入ってくる経路を意識してつくります。

そしてもうひとつ。歪んで届いた前提について、フラットに確かめられる相手を持つことです。

社内の人は、多かれ少なかれ利害のなかにいます。だからこそ、利害の外にいる相手に「この判断の前提は本当に正しいか」と問い直してもらう価値があります。

利害のない相談相手をどう持てばいいかは、経営者に相談相手がいないのは危険信号という記事で解説しています。

乖離は消せません。ただ、「乖離がある」と知って判断するのと、知らずに判断するのとでは、精度がまるで違ってきます。

まとめ:乖離を前提にすると判断は変わる

要点を整理します。

  1. 1

    指示は、中間でねじれる

    あいまいな指示、中間の都合、保身、伝言ゲーム。4つが重なって、社長の言葉は別物になって現場に届きます。

  2. 2

    見えている景色が違うので、報告も整えられる

    経営者は全体と数年先、現場は目の前と今月を見ています。上がってくる報告は途中で都合よく整えられ、経営者はいちばん情報から遠い場所で判断しています。

  3. 3

    出し方と設計の両方で減らす

    目的と背景を添える、どこまでかを決める、相手の言葉で確認する、変えるときは理由をつける。そのうえで、小さなチームと生の情報が入る経路を持ちます。

現場の入り組んだ状態は、なくなりません。ただ、それを「見えているつもり」でいるのが、いちばん危ないと思います。

自分の判断の前提が、どこかで歪んでいないか。まずそこを疑ってみることが、意思決定の精度を守る第一歩になります。

この記事を書いた人

ふくきた|意思決定ドック 主宰

ふくきた意思決定ドック 主宰

会社員として組織の内側を見ながら、副業でクライアントワークを続けています。マルチ商法での信用失墜、投資詐欺による数千万円の損失、借金、事業の失敗。人一倍の失敗を重ねるなかで、判断を誤る構造を身をもって学んできました。その経験から、経営者の意思決定に伴走する「意思決定ドック」を立ち上げています。

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