意思決定の質
管理職のなり手がいない──「なりたくない」が7割を超える理由
昇進を打診したら、断られた。
以前なら、まず起こらなかったことだと思います。役職が上がることは、望ましいものとして受け取られていました。
ただ今は、その前提が崩れています。管理職になりたくないと考える人は、例外ではなく多数派になりました。
この記事では、なぜ割に合わないと見えてしまうのか、その構造と、経営者にできる打ち手を解説します。
「管理職になりたくない」はもはや少数派ではない
まず、感覚ではなく数字で確認してみます。この変化は、想像以上にはっきりしています。
日本能率協会マネジメントセンターが2023年に実施した調査では、一般社員のうち77.3%が「管理職になりたくない」と回答しています。
カオナビHRテクノロジー総研が2025年に行った調査でも、一般社員の8割が管理職への昇進を望んでいませんでした。「なりたくない」と「あまりなりたくない」を合わせた数字です。
つまり、打診を断られるのは特殊なケースではありません。断られるほうが自然な状態になっています。
なり手が見つからないのは、採用や人選の失敗ではありません。前提が変わっています。
なぜ割に合わないと見えるのか
管理職には、はっきりしたメリットがあります。収入が増え、裁量が広がり、社内での発言力も強くなります。
それでも断られるのは、差し引かれるものが大きく見えているからです。理由は3つに整理できます。
責任と管理業務が一気に増える
現場の仕事だけをしていればよかった状態から、管理する立場へ移ります。
マネジメント、教育、マニュアル整備、数字の管理、経費の承認。こうした業務が一度に加わります。
そして成果への責任が伴います。目標に届かなければ、その説明を求められるのは管理職です。
管理業務そのものに強い苦手意識を持つ人もいます。得意な仕事で成果を出してきた人ほど、この落差は大きく感じられます。
上と下から同時に挟まれる
管理職を敬遠するいちばんの理由は、おそらくここにあると思います。
上からは、指示を実現する責任が下りてきます。下からは、納得できないという声が上がってきます。
「前と話が違う」「それは本当に大丈夫なのか」。現場も人である以上、黙って従うわけではありません。
合理性だけでは人は動かず、感情に配慮するだけでは成果が出ません。その両方を同時に扱い続けることになります。
上司の姿がそのまま将来像になっている
部下は、上司をよく見ています。
どれくらいの時間働き、何に追われ、どんな表情をしているか。日々の様子から、管理職という仕事のリアルを推測します。
そこに魅力的な将来像が見えなければ、目指す理由は生まれません。制度をどれだけ整えても、この印象は上書きされにくいものです。
そして、なり手が減るほど今いる管理職に負荷が集まり、その姿がさらに敬遠を生みます。この循環が、気づかないうちに進んでいきます。
管理職にならない側にも代償はある
公平のために、反対側も書いておきます。管理職を避け続けることには、本人にとってのコストもあります。
役職が上がらないということは、現場に留まり続けるということです。後から入った人に追い抜かれる場面も出てきます。
転職の場面でも影響します。40代でマネジメント経験がないと、その理由を問われることになります。
この点が本人に伝わっていないケースは、少なくありません。避けるという選択が、情報不足のまま行われていることがあります。
なり手が減ると経営に何が起きるか
これは人事の問題に見えて、実際には経営の問題です。影響は3つの形で現れます。
- 1
意思決定が経営者に集中する
現場で処理できるはずの判断まで上がってきます。経営者の時間が消耗して、本来使うべき判断に力が回らなくなります。
- 2
不本意な人材が管理職になる
なり手がいないため、意欲や適性ではなく消去法で選ぶことになります。本人にとっても組織にとっても不幸な配置が生まれます。
- 3
組織の伝達が細くなる
管理職が疲弊するほど、上と下をつなぐ機能が落ちます。経営者の意図は届きにくくなり、現場の実態も上がってこなくなります。
3つ目については、「社長の指示は、なぜ現場でねじれるのか」でも解説しています。判断の前提そのものが歪んでいく問題です。
なり手を増やすために経営者ができること
意欲を訴えても、この状況は変わりません。割に合うかどうかの計算そのものを変える必要があります。
板挟みの量を構造から減らす
管理職が敬遠されるいちばんの理由が板挟みなら、そこに直接手を入れるのがいちばん効きます。
たとえば、決裁できる範囲を明確にする。曖昧なままだと、すべてを上に確認することになり、板挟みの時間だけが増えます。
上からの指示が、途中で膨らんでいないかも点検してみてください。軽い問いかけのつもりが、現場では業務命令として届いていることがあります。
報酬以外に何が得られるかを言葉にする
収入は分かりやすいメリットですが、それだけでは差し引きに勝てません。
管理職になると何ができるようになるのか。どんな裁量が増え、どんな経験が積めるのか。
ここが言葉になっていない会社は多いと思います。伝わっていないものは、選ぶ理由になりません。
管理職を唯一の道にしない
全員が管理職を目指す前提そのものを見直す方法もあります。
専門性で評価される道を用意すれば、向いていない人を無理に管理職にせずに済みます。
結果として、本当に向いている人が管理職を選びやすくなります。逃げ道ではなく、適材適所の設計です。
配置そのものを意思決定として設計する考え方は、「なぜ組織の生産性は上がらないのか」で詳しく解説しています。
まとめ:断られるのは意欲の問題ではない
要点を整理します。
- 1
「なりたくない」は多数派になった
一般社員の7割から8割が管理職を望んでいません。断られるほうが自然な状態です。
- 2
割に合わないと見えている
責任と管理業務の増加、板挟み、そして上司の姿。この3つが、収入増を上回るコストとして映っています。
- 3
変えるべきは計算式
意欲を訴えるのではなく、板挟みを構造から減らして、報酬以外の見返りを言葉にし、管理職を唯一の道にしないことです。
ここで難しいのは、この計算式が経営者からは見えにくいことです。
経営者にとって、責任を負うことはリターンに直結します。しかし雇われている立場では、その関係が成り立ちません。
自分にとって当然の感覚が、相手にとっては当然ではない。このずれに気づかないまま制度を設計すると、打ち手が空振りします。
自社の管理職が、いま何を差し引きに入れているのか。まずそこを確かめてみることが、なり手を取り戻す出発点になります。

