意思決定の質
なぜ、組織の生産性は上がらないのか──「適材適所」が機能しない本当の理由
人を増やしても、組織の生産性が上がらない。
採用を重ね、頭数はそろった。それなのに、成果は思ったほど伸びていかない。
その原因の多くは、能力の不足ではない。人がハマっていないこと──つまり適材適所が機能していないことにある。
誰を、どこに置くか。この配置は、経営者にとって立派なひとつの意思決定だ。そして、しばしば見過ごされている。
この記事では、なぜ適材適所が機能しないのか、そして何を変えれば生産性が動き出すのかを整理する。
生産性は「人数」ではなく「配置」で決まる
会社の目的は、突き詰めれば利益を出し続けることだ。
そのためには、組織全体の生産性を上げる必要がある。
そして生産性は、「得意なことを、得意な人がやる」とき最も高くなる。当たり前のようでいて、これが崩れている組織は多い。
人を足しても成果が伸びないなら、疑うべきは頭数ではなく、配置のほうだ。
「なんでもできる人」を、求めすぎていないか
組織づくりの現場では、しばしば「ゼネラリストであれ」が推奨される。
経理も、営業も、マーケも、企画も、事務も、交渉も。何でもこなせる人材。たしかに、それができれば理想だ。
だが、現実の人間には、明確な得手不得手がある。
そして「何でも平均的にできる」ことを求めるほど、その人の突出した強みが埋もれていくという逆説が起きる。
経営学者ピーター・ドラッカーも、成果は弱みの克服ではなく「強みの上に築け」と説いた。組織の役割は、強みを成果に変え、弱みを無害化することにある。
万能な一人を育てるより、強みの異なる人を噛み合わせるほうが、組織は速い。
得手不得手は、意志では埋まらない
もちろん、苦手を克服しようとする姿勢は大切だ。何でも嫌だと言えば、そこに成長はない。
しかし、やってみると「伸びやすいもの」と「伸びづらいもの」が、人によってはっきり分かれる。これは意志の量では埋まらない。
興味の度合いが、集中の質を変える
興味があるかないかで、脳の使われ方も、集中するポイントも変わる。だから、同じ努力でも伸び方に差が出る。
たとえば絵や音楽を、大人になってから始めたとする。多少は描けるように、弾けるようにはなる。
だが、幼い頃から夢中でやってきた人には、簡単には届かない。得意の差は、時間と熱量の蓄積でできている。
「普通は得意」が、人によっては真逆
わかりやすいのがルーティンワークだ。
ある人は「ルーティンワークが苦手だ」と言い、次の人は「むしろ得意です」と言う。
どちらも本音で、どちらも正しい。人の適性は、これほど個人差が大きい。
だからこそ見落とせないのが、中途採用の矛盾だ。専門性を見込んで採ったはずの人材に、なぜか何でもやらせてしまう。
即戦力として強みを発揮してもらうために採ったのに、強みと関係のない仕事で消耗させる。これは生産性の観点で明らかな損だ。
適材適所を阻む、二つの壁
では、なぜ適材適所は、わかっていても実現しないのか。壁は大きく二つある。
- 1
適性を、見抜けない
その人が何を得意とし、どんな環境で力を出すのかが見えていない。単一のフォーマットで測り、そこに合わない人を「できない人」と誤って評価してしまう。
- 2
都合で、配置してしまう
上に立つ人が、成果ではなく自分の都合で人を置く。やりたくない仕事を下に押し付ける。現場の適性も要望も、判断に入ってこない。
二つ目の壁は、経営者の意図が現場でねじれる問題とも地続きだ。この構造は「社長の指示は、なぜ現場でねじれるのか」で詳しく扱った。
いずれの壁も、根っこは同じ。人を、ひとりの人として見ていないことにある。
すべては「人に興味を持てるか」に行き着く
雑用を、何も考えずに部下へ押し付ける。こうした場面は珍しくない。
もちろん、育成のために仕事を任せるのは正しい。任せることで部下が伸び、会社に貢献してくれるなら、それは良い委任だ。
問題は、そこに考えがないことだ。そしてその背景には、たいてい「部下という人間への興味の欠如」がある。
この人は何が得意で、何が苦手か。どんな環境で力を出し、何にやる気を感じるのか。どんな価値観で動いているのか。
それを見ようとせず、全員を一括りにする。ひとつの型に合わなければ「仕事ができない」とレッテルを貼る。
だが、単一のものさしで人は測れない。人を多角的に見るには、相手に興味を持ち、相手の立場で考える想像力がいる。
適材適所とは、テクニックである前に、この想像力があるかどうかの話なのだ。
配置を「意思決定」として設計する
では、経営者は何をすればいいか。配置を「なんとなく」ではなく、意識的な意思決定として設計することだ。
強み × 意向を、掛け合わせる
まず、一人ひとりの強みを把握する。次に、本人が何をやりたいと思っているか、その意向も汲む。
得意なことを、やる気のある状態で任せる。この二つが噛み合ったとき、人は最も力を出す。
本人のやる気が上がり、生産性が上がり、会社の利益も伸びる。好循環はここから始まる。
「育成」の視点も、複合させる
もちろん、常に得意なことだけをさせればいい、という単純な話ではない。
新卒なら、まだ何が得意かわからない。いろいろ経験させ、そのうえで見極める必要がある。中長期で育てる視点も欠かせない。
目の前の生産性と、将来の成長。この二つを複合させて配置を考えるのが、経営者の仕事だ。
まとめ:得意を掛け合わせると、組織は伸びる
要点を整理する。
- 1
生産性は、配置で決まる
人を増やしても成果が伸びないなら、疑うべきは頭数より配置。得意なことを得意な人がやるとき、生産性は最も高くなる。
- 2
得手不得手は、意志では埋まらない
何でも平均的にできる人を求めるほど、強みは埋もれる。強みの上に築くほうが、組織は速い。
- 3
根っこは、人への興味
適材適所を阻むのは、適性を見抜けないことと、都合で配置すること。どちらも「人を人として見ていない」ことに行き着く。
組織の生産性は、優秀な人を集めれば上がるものではない。誰を、どこに置くかという日々の意思決定の質で決まっていく。
その一人は、本当に力を出せる場所にいるか。まずそこを問い直すことが、組織を動かす起点になる。
ふくきた|意思決定ドック