ESSAY
経営者は「強くなれ」と願い、現場は「支えてくれ」と願っている
経営者は、従業員にストレス耐性を求める。
一方、現場が求めているのは、耐性ではなく支援だ。
「強くなれ」と「支えてくれ」。この2つは、まったく逆の方向を向いている。
このすれ違いが、現場を静かに追い詰めていく。
なぜ経営者はストレス耐性を求めるのか
経営者が、従業員に「ストレスに強くあってほしい」と願うのには理由がある。
ビジネスの現場は、プレッシャーがかかる場面が多い。
とくに中間管理職や幹部クラスになると、重圧に耐えながら仕事を回さなければいけない。
プレッシャーに潰れてしまっては仕事にならない。
だから経営者は、とくに優秀な人に対して「もっとストレス耐性を高めて、出世して、活躍してほしい」と思う。
これは、経営者の視点としては、まったく自然な発想だ。
しかし、現場の従業員は、そうは思っていない。
現場が求めているのは「快適に働くこと」
全員が全員、プレッシャーのかかる環境にいたいわけではない。
シンプルに、ストレスは嫌なのだ。
もちろん「出世したい」「たくさん稼ぎたい」という人もいる。そういう人は、プレッシャーの高い場所でも頑張れるだろう。
しかし、それは全員ではない。
頭のいい人、優秀な人でも「出世に興味はない」「管理職になりたくない」と考える人は、たくさんいる。
「コスパよく働きたい」「家族との時間を大事にしたい」も同じだ。
最近の若い人は「出世する意味とはなんだろう」と考える傾向があるようだ。
なぜなら近年、管理職になるリターンが少なくなってきている。
給料はそれほど上がらないのに、業務負荷は増えて、責任も重くなる。上と下からの要望で板挟みになる。
私が働いている会社の上司も、ストレスで円形脱毛症になっていた。
それを聞いたとき「本当に大変なんだな」と思った。
過度なストレスは、気持ちだけでなく体の調子にも出てくる。
ストレス耐性には、あきらかに個人差がある。私自身、打たれ強いほうではない。
そういう人間は、自分がパフォーマンスを出しやすい環境を考える。
その結果「管理職を目指す」という選択を除外してしまうわけだ。
現場が本当に欲しいのは「支援」だ
現場が求めているのは、ストレス耐性ではない。
支援だ。
現場は現場で、日々忙しく働いている。そして、現場社員といえど、なにかしらの目標を持っている。
フォロワー数を増やす、商品を何点開発する。このように達成すべき数字がある。
その目標を達成するには、一人の力では難しいこともある。だから、会社に支えてほしいと思う。
人間関係がギクシャクすれば、仲介に入ってほしい。人手が足りなければ、リソースを割いてほしい。
予算が必要なら、つけてほしい。
しかし、経営者の目線からは、こうした現場の細かいニーズは見えにくい。
見る範囲が広く、チェックする項目も多いから、現場の隅々までは把握できない。
だから役職を分けて、それぞれに役割を持たせている。それが効率的だからだ。
その仕組み自体は理解できる。
問題は、そのぶん現場の「支援してほしい」という声が経営者に届きにくくなることだ。
支援なき現場は静かに崩れる
このギャップが積み重なると、現場は徐々に疲弊していく。そして、ある日、突然崩れる。
私のいる会社の、ある部署がまさにそうなっている。
数年前、新しいシステムを使った新規事業として立ち上がった部署だ。
もともとは既存顧客向けに、満足度を高めるために設計されたサービスだった。
しかし、途中から「新規顧客もどんどん取っていく」という方針に変わった。
ところが、新規顧客と既存顧客では条件が違う。
システムがその違いに対応しておらず、非常に使い勝手の悪いツールができあがってしまった。
現場は混乱し、クレームも来た。それでも売上目標は課される。
使いにくいものを広めるのは難しく、思うように成果は出ない。
結果、人員削減。しかし、サービス自体は撤退せず、回し続けなければいけない。
人が減ったぶん、一人あたりの業務量が増えて、さらに大変になる。
現場は「勘弁してくれ」「なんとかしてくれ」と思っている。
撤退するのか、作り直すのか、ちゃんと道筋を立ててほしい、と。
なぜ「撤退」の決断は遅れるのか
そもそも、新規事業の成功率は極めて低い。
「千三つ」という言葉がある。1000の新規事業のうち、残るのは3つ。成功率にすると0.3%だ。
アビームコンサルティングが2018年に大手企業を対象に行った調査がある。
そこでも、取り組んだ新規事業のうち累積損失を解消できたのは7%とされている。
つまり、新規事業の大半は失敗する。それが現実だ。
だからこそ、見込みがないなら、どこかで撤退の決断をしなければいけない。
ずるずる続ければ、回収できない赤字がふくらんでいくだけだ。
しかし、この撤退がなかなかできない。
なぜなら、そこに人の都合が絡むからだ。
撤退すれば「失敗」という評価になる。中間管理職にはメンツがある。
だから「もう少し続ければ」と、すがってしまう。
経営判断としては撤退が正しくても、誰か一人の利害が入ると、正しい判断ができなくなる。
偉い人が絡んでいると、なおさらだ。
その結果、現場だけが見込みのない事業を回し続けさせられる。
現場を「コマ」ではなく「人」として見る
経営者は、会社の目的や目標を叶えるために動く。
だから、時に現場をコマやパーツのように見てしまうことがある。
しかし、それでは現場は思うように動かない。
ストレス耐性が高い人もいれば、低い人もいる。プレッシャーを求める人もいれば、避けたい人もいる。
その違いを認めたうえで、現場が本当に求めているもの、つまり「支援」に目を向ける。
仕事は、人生の大半を費やすものだ。だからこそ、現場が働きやすくなれば、不幸になる人は減る。
そして、働きやすくなった現場は、結果的に高いパフォーマンスを出す。
「強くなれ」と突き放す前に「なにに困っているのか」と支える。
その視点が現場の力を引き出すのだと思う。
撤退の判断が遅れる仕組みそのものは、経営コラムのほうに書いた。こちらは、回し続けさせられる側から見えている景色だ。

