エッセイPERSONAL ESSAY

ESSAY

「部下を育てる時間なんてない」が管理職の本音

ふくきた|意思決定ドック 主宰
著者ふくきた意思決定ドック 主宰

会社を成長させるうえで、人材育成は避けて通れない。

企業経営において永遠のテーマといっていいだろう。

現場の社員が育つから生産性が上がり、新しいことができるようになり、会社が発展していく。

そして、その育成を担うのは、多くの場合「管理職」だ。

会社の規模にもよるが、社長が自ら現場の社員を育てるというケースは少ないと思う。

ある程度の規模になれば、管理職が現場を育て、育った現場がやがて管理職になり、また次を育てる。

この循環で組織は回っていく。理想を言えば、この循環がぐるぐると回り続けてくれればいい。

しかし、現実はそう甘くない。

管理職には、そもそも部下を育てる時間がないのだ。

管理職はすでに手一杯

管理職は、とにかく忙しい。

ただ管理だけしていればいい、というわけではない。マネジメントもする。現場仕事もする。

いわゆるプレイングマネージャーとして自分の実務を抱えながら、部下の管理もこなしている。

そのうえ、上司と部下の板挟みだ。上からは指示が降ってくる。下からは不満が上がってくる。

その両方を受け止めながら、日々の業務を回している。

会議があり、報告があり、部下が対応できないトラブルが起これば自分が代わりに処理する。

私自身、前職でメディア運営の責任者をしていた頃がまさにそうだった。

3つのメディアを同時に見ながら、チームメンバーのマネジメントもしていた。

育てなければいけないのは分かっていた。しかし、そのための時間はどこにも残っていなかった。

この状況で「部下を育成しろ」と言われても、手が回らない。育成は、どうしても後回しになる。

そして経営者は、その様子を見てこう感じる。

「うちの管理職は、部下をなかなか育ててくれない」

フラストレーションがたまっていく。しかし、これは管理職の怠慢ではない。構造の問題だ。

なぜ管理職の負荷はこれほど高いのか

近年、管理職の業務負荷は、さらに高まっている。

理由のひとつが、残業への厳しい目だ。

昔のように、部下にガンガン残業させることが難しくなった。

部下は定時で帰す。残業しても、わずかな時間で切り上げさせる。

では、それで業務が回らなくなったとき、誰がカバーするのか。管理職だ。

部下が残した仕事を管理職が巻き取る。プレイングマネージャーとして、自分で手を動かす。

そのうえ、管理職の最優先業務は、KPIの達成だ。

まず、上層部から「これを実現しろ」というオーダーを受ける。

次に計画を立て、必要な業務を現場に割り振って達成へと導く。

残酷な話だが、会社員として働いていると「目先の数字」が重視される。

数字は評価をするために最も分かりやすい指標だからだ。

KPIを達成できなければ叱責される。なんとしてもやり遂げなければいけない。

そのためKPIの達成以外は、どうしてもおざなりになる。人材育成は、後回しになってしまうわけだ。

足し算ばかりで引き算がない

ここに、根深い問題がある。業務が足し算され続けるのだ。

一日8時間で100の仕事ができていたとする。

そこに経営層から「これもやれ」と指示が来て、120こなさなければいけなくなる。

部下に振れる仕事なら、振ればいい。しかし「自分にしかできない仕事」なら、自分でやるしかない。

結果、残業になり、管理職の負荷がさらに膨らむ。

本来、業務を足すなら、なにかを引いてあげなければいけない。

しかし、人間は「やめる」のが苦手だ。

「これをやるなら、これをやめよう」と選択と集中ができる人は、実は少ない。

多くの人は「あれもやって、これもやって」と、どんどん積み重ねてしまう。

そんなことは、続くはずがない。永遠に足し算していったら、いつか倒れてしまう。

そして厄介なことに、これは有能な人ほどやってしまう。

「自分はできる」という感覚が強いほど「これくらいできるだろう」と考える。

経営層は、優秀だからこそ経営層になっている。その高い基準値で、部下に仕事を振る。

だから、どんどん足し算になる。

経営者には現場の業務負荷が見えていない

さらに問題を深くしているのが、経営者から現場の負荷が見えにくいことだ。

叩き上げで経営者になった人なら、現場を通ってきているから、業務負荷をある程度は想像できる。

しかし、自分で創業して会社を大きくした人が、自分の通ってこなかった現場仕事の苦労を理解するのは、なかなか難しい。

二代目、三代目で、現場を踏まずに意思決定者になった場合は、なおさら解像度が低くなりがちだ。

現場が見えないまま、足し算だけが続く。

この構造は、数字にも表れている。

ある調査によると、部下の育成に悩みを抱えている管理職は60%。

さらに、会社からの支援が不十分だと感じている管理職は65%にのぼる。

6割が育成に悩み、6割5分が「支援が足りない」と感じている。

これは管理職個人の能力の問題ではない。育てる余裕そのものが、会社の構造によって奪われている。

「変革しろ」も同じ構造でつまずく

この足し算の問題は、育成だけにとどまらない。

経営者が「変革だ」「新しいことをやるぞ」と旗を振るときにも、まったく同じことが起きる。

経営者は、常に良くなりたい。会社を成長させたい。だから、次々と新しい施策を打ち出す。

一方、管理職は、面倒ごとを避けたい。

ただでさえ板挟みで手一杯なのに、新しい施策が乗ってくれば、現場が回らなくなる。

今の成果すら崩れてしまうかもしれない。だから、変化に及び腰になる。

経営者から見れば、管理職が「反対勢力」に見える。

「リスクを負って会社を良くしようとしているのに、なぜ反対するんだ」と、内心では思っている。

管理職も、新しいこと全部に反対したいわけではない。

今の事業で生まれている利益を大切に考えているのだ。

新しいことをやって、既存のうまくいっている部分が崩れないか。

リソースが割けなくなって、支障が出ないか。それを心配しているだけだ。

だから、こう考える。

新しいことをやるなら、今やっている業務のうち、なにか手放していいものはないか。

優先順位の低いものを引いて、空きを作れないか。

なんでもかんでも積み重ねられても回らない。業務を乗せられ続ければ、潰れてしまう。

だから、なにかの重量を減らさなければいけない。人間には、限界があるのだから。

筋トレと同じで重量には限界がある

これは、筋トレで考えると分かりやすい。

トレーニングを続ければ、扱える重量は増えていく。

最初は50キロしか上がらなかったベンチプレスが、60キロ、70キロと上がるようになる。

頑張れば100キロまでいくかもしれない。

しかし、限界はある。300キロ、400キロは上がらない。

「ベンチプレス1000キロを上げろ」と言われても、絶対に無理だ。

仕事も同じだ。慣れれば、こなせる量は増えていく。効率も、クオリティも上がっていく。

最初から「無理だ」と諦めていたら、50キロのまま成長しない。だから、適度な負荷は必要だ。

しかし、どこかで必ずキャパオーバーになる。その限界を上に立つ人が見てあげなければいけない。

甲子園を目指す野球部だって、がむしゃらに、なんでも練習させればいいわけではない。

勝つためになにが必要かを考え、ポジションごとにメニューを組む。

会社も同じで、部署ごとに求められるものは違う。

適切な負荷になっているか。成長できる取り組みになっているか。

オーバーワークで、心身を壊しかけていないか。それを見てあげるのが上の役割だ。

経営者にたったひとつ念頭に置いてほしいこと

日本の組織には、いまだに根性論が残っている。

「やればできる」というマインドは、たしかに突破のうえで重要だ。

しかし、そこに甘えて思考停止してはいけない。

その人を伸ばすための適切な負荷なのか。適切な業務量か。適切なリソース配分か。

優先順位の設計はなされているか。

それを把握しないまま「やれ、やれ」と繰り返すのは、乱暴だ。

いま私は現場側にいて、振り回される立場を経験している。

管理職として振る側にいたことも、振られる側にいることも、両方ある。

その両方から見て思うのは、これは気持ちの問題ではないということだ。

だから、経営者に念頭に置いてほしいことは、ひとつだ。

部下が育たないのは「育てる気がない」のではなく「育てる余白がない」のだ。

育成を任せたいなら、まず管理職の業務を減らす。

優先順位を見直し、人材育成の優先度を上げ、育成に対するKPIも設ける。

そこまでやって、はじめて育成は機能し始める。

変革も同じだ。なにかを足すなら、なにかを引く。

その引き算をセットで用意しない限り、どんな号令も現場で空回りするだけだ。

足し算だけの経営から、引き算のできる経営へ。その視点が、これからの組織には必要だと思う。

業務量をどう見直すかは、経営コラムのほうに書いた。こちらは、振る側と振られる側の両方にいた人間の実感だ。

この記事を書いた人

ふくきた|意思決定ドック 主宰

ふくきた意思決定ドック 主宰

会社員として組織の内側を見ながら、副業でクライアントワークを続けています。マルチ商法での信用失墜、投資詐欺による数千万円の損失、借金、事業の失敗。人一倍の失敗を重ねるなかで、判断を誤る構造を身をもって学んできました。その経験から、経営者の意思決定に伴走する「意思決定ドック」を立ち上げています。

プロフィールを見る →

あわせて読みたい

小冊子を受け取る

「やめる決断ができない4つの理由」+初回60分の無料セッション