ESSAY
部下に「いつでも相談して」と伝えても響かない理由
経営者は管理職に対して「悩んでいるなら相談してほしい」と思っている。
会社で働いていたら、一度は聞いたことがないだろうか。「困ったことがあったらいつでも相談して」と。
会社の規模によっては、経営者と直接話す機会がないかもしれない。
ただ、直属の上司からそう言われたことは、誰しも一度はあると思う。
しかし、ここに大きなギャップがある。
経営者は「相談してほしい」と思っているのに、管理職からすると「弱みを見せられない」と感じている。
下手に社長に相談して評価を下げてしまっては、それこそ会社に居づらくなってしまう。
しかし、経営者はそのようなことは思っていない。
シンプルな善意として、管理職や現場の従業員が悩みを抱えているなら、解決してあげたいと思っている。
この善意とためらいのすれ違いが、小さな問題を取り返しのつかない大問題へと育ててしまう。
経営者は本気で相談してほしいと思っている
人は、誰しも悩む。仕事をしていれば、なおさらだ。
自力で解決できる悩みもあれば、一人ではどうにもならない悩みもある。ネットで調べて解決できるものばかりではない。
そういうとき、人は身近な人に相談したくなる。
とくに仕事の悩みは、状況を一番分かってくれる社内の人に相談したくなるだろう。
相談することで、解決策が出やすくなる。悩みも軽くなる。
結果、その人は長く働けるようになり、問題も早く片づく。
だから経営者は「悩んでいる管理職がいたら、相談してほしい」と本気で思っている。
これは、私自身も実感がある。
Webディレクターとして管理職をやっていた頃、現場の人に「深刻になる前に、こまめに相談してほしい」と思っていた。
そのほうが大きなトラブルにならずに済むからだ。
管理職の私ですらそう思うのだから、経営者はなおさらだろう。経験も豊富で、的確なアドバイスもできる。
「相談してくれたら、もっと早く解決できるのに」「こんなに大きくならなかったのに」と、もどかしく感じている。
部下は「弱みを見せられない」と思っている
ところが、である。
現場の人間や中間管理職にとって、幹部や経営者に相談するのは、心理的なハードルが非常に高い。
「できない人だと思われたくない」「弱みを見せたくない」「失望されたくない」
失望されれば、社内評価に関わる。評価は、昇給や昇進に直結する。つまり、自分の報酬に響く。
「なんだ、こんなこともできないのか」と思われたら、チャンスが回ってこなくなるかもしれない。
出世の道が断たれるかもしれない。
だから、弱みを見せられない。なんとか成果を出さなければ。問題は自分で解決しなければ。
こんなことで相談するなんて、とんでもない。そうやって、抱え込む。
結果、問題は膨れ上がる。
そして事が大きくなってから、経営者が「えっ、そんなことになっていたのか」と気づく。
このパターンが日本中の企業で起きている。
「相談していいよ」を部下は鵜呑みにできない
厄介なのは、経営者が「いつでも相談してね」と言っても、部下はそれを鵜呑みにできないことだ。
言葉では「相談していい」と言われても、評価を握られている相手に弱みは見せられない。
この構造そのものが変わらないからだ。
さらに、相手のキャラクターも関係する。
威厳のある人、少し怖そうな人には、気後れして相談できない。
結果、話しやすい人に相談することになるが、話しやすい同僚は、必ずしもクリティカルな解決策を出せるとは限らない。
自分より実力が上の人に相談するから解決策が出る。しかしその相手が、最も相談しにくい。
だから問題解決がどんどん遅れていく。
経営者自身も実は悩んでいる
ここで見落とされがちなのが、経営者もまた悩んでいるということだ。
「相談してほしい」と思いながらも、部下にどう伝えればいいのか、どうマネジメントすればいいのか。
迷いながらやっている経営者は多いと思う。
「いつでも相談してね」と言っても、部下は動かない。では、どうすれば風通しが良くなるのか。
どうすれば気軽に相談してもらえるのか。問題を早期に発見できるのか。
その答えが分からず悶々としているうちに、いつの間にか「相談できない組織」ができあがってしまう。
マネジメントも、人との接し方も、本当に難しい。
大事なのは「この人になら言える」という安心感
では、どうすればいいのか。
仕組みとして有効なのは、定期的な1on1だと思う。決まった頻度で、相談できる時間を持つ。
ただし、雰囲気が悪ければ、1on1をやっても本音は出てこない。だから、経営者側のスタンスが問われる。
頭ごなしに怒らない。叱責しない。まずフラットに聞く。
問題はないか、悩みはないか、なにが起きているか。それを一度、受け止める。
「怒られる」が前提にあると、人は本音を話せない。
もちろん、経営者も人間だから、苛立つ場面はある。
しかし「怒るために話を聞く」という姿勢では、部下は口を閉ざす。1on1そのものが意味を失ってしまう。
きれいごとだけでは会社は回らない
もうひとつ、重要なことがある。
「愚痴はダメ」「悪口はダメ」「ネガティブなことを言うな」。こういう風潮が、会社にはある。
たしかに、それは正しい。陰口を言わない、不満をまき散らさない。正しいことだと思う。
しかし、きれいごとだけで会社が回っているかというと、そうではない。
100人いたとして「全員が全員のことを好き」という会社があるだろうか。極めて難しいことではないだろうか。
1人や2人は、気に食わない、仲が悪い、苦手だと思う相手がいる。それが人間だ。
私にも、仕事だから話すけれど極力関わりたくないと思う相手はいる。
しかし「あの人が苦手なんです」と、上司に言えるだろうか。
普通は言えない。「こいつ、悪口を言っているな」と思われたらどうしよう。評価が下がったらどうしよう。
噂になったらどうしよう。そう考えて、飲み込む。
だからこそ、経営者にはひとつの覚悟が要る。
1on1で聞いたことを外部に漏らさない。心に秘めておく。
「この人になら、言っても大丈夫だ」
そう思ってもらえなければ、胸の内に抱えている本音は絶対に出てこない。
結果、当たり障りのない報告しか上がらなくなる。
「問題を抱えている前提」で聞く
完璧に、すべてをこなせる人などいない。
ミスが少なく、成果を出せる人でも、抱えている課題はゼロではない。
仕事をする以上、トラブルもミスも、なにかしら抱えているものだ。
だから、こう考えるといいと思う。
この人は、なにかしら問題を抱えている。それをどうやって解決してあげられるか。
その視点で話を聞く。
言いやすい風土、文化、仕組み。そしてなにより、経営者自身のスタンス。
秘密を守り、受け止め、安心して話せる相手であること。泥臭いが、これが本質だと思う。
「いつでも相談して」という言葉は、それだけでは一番届かない言葉だ。
その言葉に「この人になら言える」という安心感が伴って、はじめて本音を話そうと思うのだから。
本音が出る1on1をどう設計するかは、経営コラムのほうに書いた。こちらは、言う側と言われる側の両方に立ったことがある人間の実感だ。

